アイドル、それは女の子の永遠の憧れ。

「あなたにとってアイドルとは?」

 

 このセリフは、アニメ『アイドルマスター』第一話「これからが彼女たちのはじまり」にて、記者吉澤氏が765プロアイドルそれぞれに行った質問である。

 一見取材対象へ投げかける質問としてはありきたりな問いのように見えるが、これを作中アイドルに対して行う質問、というだけで済ませるのはあまりにも勿体ないのではないだろうか。    

 吉澤記者は、きっとアイドルマスターというコンテンツに関わる全ての方々に同じ質問を投げかけているのではないだろうか。

 

 さて、話は変わるがアイドルマスターはアイドル活動を通して女の子の成長を見守っていくというのがコンセプトのゲームだ。プロデューサーという立場に立ち、アイドルを通して成長していく女の子たちと時に笑い合い、時に共に泣き、時に淡い想いに心を通わせて……。

 プロデューサーという主人公と出会うことによって作中のアイドル達はトップへの道を駆け上がっていくのだ。

 

 ではプロデューサーに出会えなかったアイドル達は一体どんな世界を歩いていくのだろうか。

 プロデューサーという主人公に出会えなかったアイドル達。これを読んでいる方々はもしかして心当たりがある存在がいるのではないだろうか。

 もしかしたら圧倒的な才能に恵まれていたかもしれない。もしかしたら血の滲むような努力をしていたのかもしれない。もしかしたら、アイドルという存在に誰よりも強い憧れを抱いていたかもしれない。でも、それでも、ゲームの主人公に出会えなかったことを機にトップアイドルになれなかった少女がシャニマスには存在している。

 

 彼女の名前は、『アイドルC』。

 

  プロデュースシナリオ、W.I.N.G編において幾度となくプレイヤーたちの優勝を阻んできた存在。サービス当初は私も何度も彼女に苦い思いをさせられ続けてきたことを思い出す。決勝戦Vo1位だった時の絶望感と言ったら。今はサポートアイテムもたくさん持ち込めるようになり多少攻略も楽になっただろうが、サービス開始当初は完全に運ゲーなどと言われたものだ。

 話が横道にそれてしまったので本筋に戻そう。

 さて、そんな決勝戦において何度も姿を現し我々プレイヤーとアイドルを脅かす存在。彼女こそ、アイドルマスターシャイニーカラーズというゲームに囚われ続けている一番の被害者なのではないだろうか。

 

 シャニマスアイドル達はW.I.N.G編を経てファン感謝祭編へと歩みを進めていく。しかし、アイドルCの背景は決して語られることは無い。そりゃゲーム内においては固有の名称さえないただのモブである。しかしながら圧倒的な歌唱力があり、ダンス、ビジュアルの面でだってW.I.N.Gで決勝までのし上がってくるほどの折り紙付きだ。そんな彼女のトップアイドルとしての道程が、ただ一人のモブとして終わってしまうのはあまりにも悲しすぎるのではないだろうか。

 もちろんメタ的な視点を入れてしまうと、このゲームは283プロダクションのアイドルをトップへと導いていくことを目的としたゲームだ。他事務所のアイドル、ましてや名もなきモブに感情移入をすること自体がお門違いだと言われてしまったらそこまでだろう。

 

 しかし私はどうしても思ってしまう。『アイドル』それは女の子たちの永遠の憧れ。それはきっと彼女だってそうに違いないのだ。努力、才能、時の運。それを全て味方につけた女の子こそがその頂点へと辿り着けるのだ。アイドルに憧れる”女の子”にはきっと、各シーズンで敗れていったアイドル達やW.I.N.G本選でしのぎを削った少女たち、その全てが含まれているということを。そんな名も知れぬ少女たちの夢を踏み台にして、283プロのプロデューサーと担当アイドルはトップへの道を駆け上がっていくのである。

 

 さて、最初の問いかけに戻ろう。

「あなたにとってのアイドルとは?」

 その問いかけに、私は自信を持ってこう答えよう。

 私にとってのアイドルとは、夢と現実の狭間で開演する舞台であると。少女たちの夢、そして我々の夢が存在する場所であり、その舞台裏にはあまりにもリアルで、あまりにも残酷な現実が広がっている。283プロのアイドル達が立っているのはヒノキやナラの木張りのステージだけではない。自らの憧れと意思で踏み台としてきた、多くのアイドル達の上に彼女たちは立っているのだ。

 

 だから、時折思い出して欲しいのだ。

 夢見る少女たちが大勢あの世界には存在していたということを。その中でも圧倒的な歌唱力で恐らく多くのファンを魅了してきたであろう彼女のことを。

 『アイドルC

 私は時折たまらなくなるほど、名もなき彼女の叶わなかった夢に一種の羨望と無念さを感じてしまう。

 

 シャニPよ、君に誰かの憧れを踏み越える覚悟はあるか。

 私は彼女の叶わなかった夢を抱いて、憧れの先を見続けていこう。